海に囲まれた島で、ウイスキーを育てる
- 第1弾、第2弾がシングルモルトだったのに対し、第3弾はブレンデッドモルト。
しかし、単に複数の原酒を合わせたのではない。一種でも十分な魅力を持つ3つのモルト原酒を選び、その個性を活かしながら、これまでにない味わいに仕立てる、「スペシャルエディション五島」の新たなチャレンジ。
その3つの原酒すべてに共通するのが、「YA」の名が示すYakushima Aging――屋久島で熟成の時を重ねていることだ。
屋久島東部、安房(あんぼう)にある本坊酒造の屋久島伝承蔵。その敷地内に熟成・貯蔵庫、マルス屋久島エージングセラーが開設されたのは2016年。長野県のマルス駒ヶ岳蒸溜所、鹿児島県のマルス津貫蒸溜所でつくられたマルスウイスキーの原酒の一部が海を渡り、このセラーに運び込まれている。
同じ原酒、同じ樽であっても、熟成させる場所が変われば、その表情は変わる。
蒸溜所だけではなく、「どこで時を過ごしたか」もまた、ウイスキーの味わいを形づくる大切な要素だ。 
Yakushima Aging――駒ヶ岳と津貫に刻まれる屋久島の時間
- 年間を通して温暖で雨が多く高湿度、山からも海からも風が吹く屋久島。そんな環境のなかで、駒ヶ岳と津貫、それぞれ異なる土地で生まれた原酒が、熟成されていく。
本坊酒造が屋久島熟成の特長として掲げるのは、「Tropical & Salty」。「Tropical」は、南国の果実を思わせる華やかさ。一方の「Salty」は、単純に塩味を意味するものではなく、海の恵みを思わせるほのかなミネラル感、旨みのような味わいを指す。
最初から「3つ」だったわけではない
さて、今回の「YA五島」を構成するのは、
駒ヶ岳蒸溜所で2019年に蒸溜されたモルト原酒。
津貫蒸溜所で2020年に蒸溜されたモルト原酒。
そして、駒ヶ岳で2021年に蒸溜されたモルト原酒。
最終的なブレンド比率は、「津貫2020」が約半量、「駒ヶ岳2019」と「駒ヶ岳2021」がそれぞれ4分の1程度。興味深いのは、最初からこの3原酒をブレンドするという「完成図」があったわけではないことだ。
津貫で行われた選定会で候補となる原酒をテイスティングするなか、まず注目されたのは「津貫2020」と「駒ヶ岳2019」。「津貫2020」は、しっかりとした骨格と深みを持ち、5ppmというわずかなピートを効かせた原酒で、今回のブレンドの中心となる存在。一方、「駒ヶ岳2019」は、白桃やアンズ、黄色い果実のような上品なフルーティーさを持つ、落ち着きのある穏やかな味わい。まずは、性格の異なるこの2種を合わせた。
「この状態でも十分においしいウイスキーでありながら、複数のウイスキーでバランスを取るとどうなるのかという好奇心から、メンバーで意見交換して仕上げていきました。」
選定に参加したBELLUSTAR TOKYOの料飲支配人・吉田茂樹は、こう回想する。

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味わいを変えた第3の原酒
そこで加えられたのが、別の候補として高い評価を得ていた「駒ヶ岳2021」だった。この原酒は木桶で発酵されたもの。ステンレスの発酵槽とは異なり、木桶発酵では乳酸菌などの働きによって、原酒に柔らかく丸みを帯びた個性が生まれるといわれる。これを加えてみた。
すると、それまでの2原酒によるブレンドの表情が変わった。微かなピート香と力強く深みのある骨格を持つ「津貫2020」と、上品でフルーティーな「駒ヶ岳2019」。その間をつなぐように、「駒ヶ岳2021」のミルキーでクリーミーな丸みが加わることで、3つの個性がひとつの味わいとしてまとまった。
今回のブレンドは、個性の弱い原酒を補い合わせるためのものではない。単体でも十分な魅力を持つ原酒をさらに組み合わせることで、一種では生まれなかった複雑さとバランスをつくり出す。それは贅沢な挑戦だった。


甘く華やか、そして屋久島のシグネチャー
- では「YA五島」はどんな味わいなのだろう。
原酒の選定からブレンドまで携わった吉田は、ストレートで味わったときの変化を、時間の流れに沿うように表現する。
最初に立ち上がるのは、甘く華やかな香り。
「ミルクチョコレートやミルクキャラメルのような甘い香り、そこにセイロンティーを思わせる華やかな香りが重なってきます」
口に含むと、その印象は少しずつ変化していく。中盤に現れてくるのは、「津貫2020」がもたらすしっかりとした深み。
「後半になると、屋久島熟成らしい、海風を連想する出汁の旨みのようなニュアンスが現れてきます。余韻はとても柔らかです」
その柔らかな丸みと多層的な発酵香を織りなす原酒が、木桶発酵の「駒ヶ岳2021」だと吉田はいう。華やかな甘味、しっかりとした深み、ミネラル感と旨み、そして穏やかな余韻。異なる要素が次々と現れながら、どれかが突出するのではなく、ひとつの流れとして続いていく。ウイスキーに親しんだ人なら、駒ヶ岳と津貫、そして屋久島熟成という異なる要素をひとつずつ探していく楽しみもあるかもしれない。
吉田が勧めるもうひとつが炭酸割り。
一般的な軽いハイボールとは少し違う。ウイスキーと炭酸の比率はおよそ1対1。ウイスキーの存在感をしっかり残したハーフハイボールだ。
「これにライム果汁を搾るのではなく、1枚のスライスを添えるくらい。柑橘が少し入ると、また異なった香りが開いてきます」
食事とともに楽しむなら、この飲み方も面白い。吉田が実際に合わせたのは、ベーコンと濃厚なチーズを使ったクリームソースのペンネ。
「クリームのまろやかさ、チーズのコク、ベーコンの塩味や燻香と、このウイスキーの柔らかさや旨みがよく調和しました。魚料理も、クリーム系ソースを合わせたものはウイスキーの豊かな風味が料理に寄り添い、また異なる表情を引き出してくれます。」
(吉田) 
3つの原酒が、ひとつになるまで
- 「津貫2020」、「駒ヶ岳2019」、「駒ヶ岳2021」。
生まれた年、蒸溜された場所、原酒としての性格も異なる3つのモルト。それぞれが海を渡り、屋久島という場所で時を重ねた。テイスティングを繰り返すなかでふたつの原酒が選ばれ、さらにもうひとつが加わった。最初から答えが決まっていたわけではない。味わい、組み合わせ、また味わう。
「こちらのよさも残したい」
「これを加えたら、どうなるだろう」
蒸溜する人がいる。
熟成を見守る人がいる。
原酒を選び、ブレンドする人がいる。
そして、屋久島で流れた時間があった。
人が生み出し、自然が育て、最後には人がその味わいを整える。
唯一無二のブレンデッドモルト「YA五島」。グラスを傾けながら、ぜひその物語を味わってほしい。
BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel 料飲支配人 吉田茂樹
- 2012年バーテンダーの祭典「WORLD CLASS 2012 世界大会」スピード チャレンジ部門での部門優勝のほか受賞歴多数。シガーへの造詣も深くシガーコンクール優勝の経歴も。シャンパーニュ騎士団「オフィシエ」叙任。

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